森茉莉

2015年05月29日

森茉莉日記 ヴォリュプテの化身、残酷な微笑編

20150522「痴人の愛」のナオミに並ぶ毒婦が登場する小説と言えば…森茉莉の長編小説「甘い蜜の部屋」ね。

偶然帯叩きに三島由紀夫氏が"官能的傑作"と評していていると書かれていたのだけど、なるほど、読み進むにつれ本編のあちらこちらで三島氏独特の"時間差の人物描写"手法が見られ、二人の感性が共通していると分かり納得したわ。

ストーリーは大きな起承転結はないものの、じわじわと虫が這うような不快感があって凄く良い。時は大正時代。ある名家に、この世の美を全て集めたような美貌と無意識の媚態を持って生まれてきた少女が生まれるの・・・彼女の名はモイラ。いつまでたっても精神は無垢な子供のままなのだけど、時折毒を含んだ甘い蜜で男性達の人生を狂わしてゆくのよ。

そんな可憐な獣を操る事が出来るのは、彼女を愛してやまない父親だけ。モイラ自身も恋人よりも夫よりも父親を愛し、魂の拠り所にしていたわ。彼女は平凡を蔑み美しいものだけを愛し、自分の哲学に反するものを排除していくのだけど、それは彼女が完全なる美を持っているからこそ通用するのよ。

モイラは恋人、下男、婚約者と次々に自分の崇拝者を増やしていくけど、年老いたロシア人ピアノ教師が、中学生になったばかりの彼女に心を奪われていく様は絶妙!枯れてしまっていた教師の心に宿る小さな情熱の火・・・その火をこっそりと灯し続けることが彼にとっての"蜜"であり、幼いモイラが初めてに男性に与えた"蜜"でもあるの。ナオミは男性を惑わす術を身につけ”後天的な蜜”を持つけれど、モイラは”先天的な蜜”を持っていたということになるわ。そういう点ではモイラは無敵の毒婦と言えるかしらね。

しかしながら、どんな年若く美しい青年が登場して愛を語ったとしてもこれほどまでに美しくせつない描写はなされないだろうと思うくらい、この行は見事だった。自分も以前このせつない部分を表現したくて、PODCASTで『ピアノ爺』という作品を作ったのだけど、こういう感覚がヒットするのは母性が強い女性だからこそなのかも。しかしながらここまで男性陣を惑わせるモイラには、同じ女性として羨望してしまう・・・いや、でもどこか人間離れしていて恐ろしいわ。

最後の章で父親が心中を語る部分は、読者への考慮なのか分かりやすい言葉を選んでいるのが残念だけど、本文の細やかな描写は読み手を大正ロマネスクの世界に誘うのには十分よ。女性には"美が導き出す恍惚感"、男性には"コキュ的な愛情"を存分に味あわせてくれる名作とでも言うべきかしら。さて、女性たちには自惚れ、男性たちには翻弄を楽しんで頂く時間ですよ。是非!

pipopipotv at 00:00|PermalinkComments(0)