日野日出志

2015年06月14日

日野日出志日記6 母胎回帰編

20150612清水正「日野日出志を読む」…本書は、漫画家日野日出志の作品について著者の漫画論を述べたものよ。読み進めていくうち、著者がどれだけ彼の作品を愛しているのか窺い知れるし、これまで未読の作品を紹介してくれているのも嬉しい限り。

自分自身日野作品を網羅していないので、その中から気に入ったものを更に探し出すという楽しみも享受できるわ。そういう意味でも、日野作品に馴染みの無い人が読んでも十分に楽しめる構成になっているかも。

個人的に最も気になった作品は「水の中」…魚好きの少年が事故に遭い、酷いケガを負って母の世話なしには生きられなくなってしまうという冒頭から壮絶なストーリーよ。

父も亡くなり、経済的に切迫した家計を支えるべく母は水商売を始めたわ。最初は少年の世話を焼き優しかった母が、次第に"女"へと変化し少年に辛く当たるようになるのよ。ある夜母は男と一緒に帰ってきたものの、朝になると男の姿はなく冷たくなった母の姿だけが・・・。

少年はやっと自分の元に帰ってきた母の側で嬉しそうに添い寝をするの。しかし不思議なことに親子の姿は忽然と消えてしまう。近所の人が姿が見えない親子を心配して警察を呼ぶけれど、警察も事件性の無さにただ首をかしげるばかり。しかし水槽の中では幸せそうな親子の姿が・・・というファンタジー作品で、決してホラーではないのよ。

何より親子は”共に生きる事”に一生懸命だっただけで、途中それを維持するために歪みが出来てしまっただけにすぎない。これほどまでに現実は幻想の世界よりも過酷であり、生きるということはこれほどまでに悲しい事であると思い知らされたわ。この「水の中」はそれ以来自分の中に大きな波紋をもたらし、寝ても覚めてもこの作品の事を考える日々が続いたの。

清水氏曰く…『日野作品はオイディプス的願望が色濃く出ている』と論じているけど、その考えには同感!恐らく少年は母と一体化したかったに違いない。男性の殆どは深層心理の中でそう思っているはずだし、あれだけ大事にしていた母が水商売の為美しくなるのは少年にとって裏切り行為であり、男達と関係を持たれるくらいなら死して自分の元に戻ってきた事が喜びだったに違いないわ。少年の部屋にある水槽は母胎回帰の現れであり、少年は再び母の羊水の中に帰っていったのかも・・・。

これほどまでに人間の奥底に潜む感情や衝動を暴く事の出来る漫画家がいるだろうか?…改めて言えることは、日野日出志先生はホラー作家では無く、あくまで表現方法として漫画を用いただけ。彼こそが”人間作家”であるということをここに強く訴えたいわ。

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2015年05月25日

日野日出志日記5 ジパングナイト編

201505191997年発刊の日野日出志先生作品集「ジパングナイト」…短編9話というボリュームながら内容は更に濃厚よ。ティーン向けの雑誌に初出された作品ばかりなので、比較的分かりやすいストーリーではあるもののその切り口はさすが!のひと言ね。

どの作品も都会に生きる人間達の悲しさや苦しみが描かれていて、ストーリー展開が簡潔であっても重みは失われていない。ネズミを愛するが故にいじめられ自らネズミになった少女、家族の期待を背負い猛勉強をしたあまり頭が支えられないくらい肥大した少年、マンションの一室でひっそり子供を産みひっそり死んでいった母子、親より早死にしてしまった子供達が地獄に行くまでの準備をするクラス”死組”など着眼点が実にお見事よ。

しかし従来の日野作品から比較すると、より現代に近い時代背景に設定されていたり、画風も悪い意味で丁寧になっていたりと、ご本人の思惑ではない部分が見え隠れすると同時に若干線の威力が失われている感は否めないのが残念ね。

お気に入りは『うしろの正面』

ある朝、首だけが後ろ向きになってしまった少女が色々な病院で治療を受けたけど効果はなく、睡眠療法を試みたところ、少女が心に大きな問題を抱えていたことが判明したわ。神童と呼ばれるくらい優秀だった少女は家族に期待されたのだけど、4年生になると同時に成績がガタ落ちに。家族や周囲の態度は一変し、そこから少女の苦悩と復讐が始まったの。

結局少女の首は完治したけど、その為には贄が必要だった・・・!彼女は己の欲望を満たす為に心まで後ろ向きになってしまったのよ。しかしながら、このお話は学校だけでなく会社や家庭でも置き換えられる話だわ。自分の能力が発揮できてるうちは誰もが賞賛し認めてくれる。しかしそこから転落し、仕事や地位やお金を失った時に助けてくれる人は殆どいない・・・実に悔しく悲しい事だけど、誰にでも起こりうる事ではあるものよ。

地に落ちて初めて人間の妬み嫉み、自責の念の洗礼を受け、最終的に死を見つめるようになる。でもそこから這い上がって来た者こそ今生に生きる権利があるのだ、と日野先生は私達読者に訴えかけている気がしてならない。本当の強さとは人に認めてもらうことでは無く、まずは自身を己が認めるところから始まるのではないだろうか。

その他にもエコロジーを訴えながら結局都会でしか生きられない事を悟った都会育ちの家族など、現代に警鐘を鳴らす作品が目白押し!もしかしたらこの作品すべてが先生自身を反映させているのでは無いか・・・と思わずにいられない。ただただ今自分が生きているという”事実”をリアルに受け止めさせられてしまった、というのが感想ね。煉獄に生きるためのバイブル・・・それが日野作品だ!

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2015年05月19日

日野日出志日記4 地獄小僧編

20150515漫画家の日野日出志先生…彼はホラー漫画の重鎮と呼ばれているけど、ホラー作家というカテゴリーを超え、人間の生きる故の悲しみや苦しみ、そして生と死を深く描く"人間作家"と呼ぶべきかもしれない。

幼い頃、あまりにもインパクトのある先生の作品に圧倒され、自分の本棚にコレクション出来ずにいたけど、歳を経て先生と出会い画集を拝見し、その恐るべきエネルギーと哲学に衝撃を受けたわ。

グロテスクなビジュアルのキャラクター達は決して子供だましに誇張されているのでは無くその様相に至るまでの理由があり、何かの比喩であったり風刺だったりする。ようやく作品の本意を自分なりに理解出来るようになったからというもの、遂に日野先生の漫画を集める事にしたの。

しかしこの時代の作品は入手困難な物も多く少しずつネットや古本屋を当たることにしたのよ…今日は比較的手に入りやすい22年前刊行された「日野日出志選集・地獄の絵草紙(地獄小僧の巻)」を御紹介。

天才医師で地元の名家の主『円間(えんま)』は家族で外出中事故に遭い、愛息大雄(だいお)を失うの。悲しみに暮れる夫婦の前に突然一人の男が現れ息子を生き返らせる方法を告げていったわ…藁にもすがる思いでその恐ろしい方法を実践すると死んだ息子が蘇り、そこから円間一家の破滅が始まるの。

死者が生きた人間を食らう・・なんていうホラーにありがちな残虐な展開ははあれど、日野先生は"生の世界にこそ地獄がある"という事を訴えているのよ!…人間の偏見、驕り、執着・・・様々な念が今生を地獄絵図に変えている事を知っていながら我々はのうのうと生きているんだと気づかされるわ。

登場するキャラクター達のネーミングがコミカルで一歩間違えばライトな感覚の作品になってしまうけれど、そこはさすが日野作品・・・逆に各キャラクターの苦悩や悲哀などが色濃く浮き出ており重厚な内容にエッセンス的な役割を果たしているのが素晴らしい。

この本では単行本には収録されていないラストが追加されており前半の色々なシーンがコラージュされまるで映画のような演出になっているの…この部分で地獄小僧が背負う運命の重さや悲しみが表現され、心の奥底に鈍い感覚を突き立てられた感じ。これは子供には分からないでしょう・・・日野作品恐るべし!!

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2014年06月11日

日野日出志日記3 運命の出会い編

運命の巡りあわせ、というのは人生に於いてそんなに多く起きるものではない。でもその瞬間は突如訪れたわ。あれは2006年11月・・初のiTunesリリースに向け準備に追われ、自分の人生で大きな転換期を迎えた時期だったの。自分の作品を生み出す前に、己の世界観に大きく影響を与えた創造主の一人にまさか会うことになろうとは・・・以下、当時のブログの文章と写真を転記させて頂くわ。写真は当時の携帯で撮影したものなので、ぼけててもご容赦を(*_*;)

20140610(2006 11.14)
今日は大泣きした。
とにかく大泣きした。
こんな事が有るなんて・・
奇跡の日だった。

このところ、歌詞の書き直しで相当参っていた。この上なく参ってた。おまけに久々に大熱が出て、頭痛でおかしくなった。

今日はバイトは7時からの出勤で、しかも忙しい。お昼を3時くらいに食べて、仕事をしてめまいでくらくら。あまりの頭痛に5時前に職場を出た。

歌詞歌詞歌詞・・・。
吐きそうになりながらとにかく病院へ。まだ間に合うはず。
その時、ふと考えた。
こんな状況で注射しても自己治癒力を低下させるし、注射は高い。
とにかく寝よう。

有楽町の駅に向かいつつ、また歌詞の事を考える。

そして、ある重大な事に気付いた。

今日から、ピポ子の尊敬する日野日出志先生の個展が開催されるのだ。
しかも偶然にもこの職場の近所。
そのギャラリーは、先週偶然買い物の途中で見つけた小さなギャラリーで
更なる偶然の出来事だが、そこで日野先生の個展が行われると言う事を一昨日知ったのだ。

この時期に見たい絵が見れる。
これは「見ろ」との啓示としか考えられない!!
具合はかなり悪いが、今日が初日・・・いかなくちゃ!!

早速熱で口を腫らし、ノーメイクにストール姿で到着。
お客はまだピポ子のみ・・・。

会場は、まさに「日野日出志」の世界だった。
頭痛も忘れ、絵に見入る。
なんという線、色、なんという臭いなんだ!!!

幼稚園の時に初めて見た時からずっと忘れられない。
この人の絵にショックを受け、読みたいが怖くて 買って家に置けず
この人の漫画を立ち読みする為お稽古に通った日々・・・。

日野先生は、日本のホラー漫画の第一人者だ。
その画風、世界観は恐ろしいほどにオリジナルである。
この世に天才がいるなら、まさしく先生の事を指すに違いない。

もともと太い線と細い線の対比が美しかったが
生の原稿を見て愕然とした。

どんな細かい部分もすごく丁寧に描き込まれている。
色の風合いも抜群だ。
赤、黒の2色で描かれた原稿はその2色で完結していた。
他の色はいらないのだ。

カラーの扉絵も素晴らしい。
グロテスクに歪み、うじ虫のわき出る体とその背景にあるもの。
沼、ごみ捨て場、工場・・・
ありとあらゆる昔の日本の「息吹き」を感じる背景。
おとうさん、おかあさん、おねえちゃんとちゃぶ台を囲んだ頃の日本。
その前で、人間の醜さ、性を表現する「異形」な者たち。

こんなに匂い立つ作品を見た事が無い。

吐き気を忘れ、目に焼き付けた。
正直日野先生の作品はあまり読んだ事が無い。
というか持っていない。
ファンなのに???と思われるかもしれんが
「買えない」といった方がいいかもしれない。
作品自体入手しにくいのもあるが、
幼稚園の頃のピポ子の感性では「怖いし、気持ち悪いからお部屋においときとくない」
というのが先立って、買うのには勇気がいったのだ。

時を越え、何故だか分からないがこの2,3年日野先生の作品が見たくてたまらなくなった。
それだけ印象が強烈だったに違いない。

ふとある原稿の前で足を止めた。

漫画の生原稿だ。

タイトルは「赤い実」

びっくりして泣きそうになった。

来年私がリリースする予定の曲名は
「赤い実」なのである。

私はこの作品を今日初めて見たのだ。
しかし、この曲が出来たのは数カ月前。

しかもそこに描かれている赤い実の絵は
私が自分の手帳に描いたものと同じであった。

何だか複雑な気持ちで泣きたくなった。
ただただ泣きたくなった。

おろおろして作品を見ていると、
ギャラリーの中央で年配の男性が3人ワインを飲んでいた。
陽気に楽しそうにイタリアの話をしている。
きっと後援会の方なんだな・・・
そんな方々を横目に、画集を買おうとギャラリーの女性に声を掛けた。

「あの・・・これサイン付き画集下さい!」

「有り難うございます。
あ、折角先生がおいでですから名前を書いて頂いたら?」

・・・・はぁ?
・・・・・えっ!?
・・・・・・・えええええええええええええっ!?ナンですって!!!?????

振り返ると、ワイン会の方がこちらを向いて口ぐちに
「ほらほら、サインして差し上げなよ!」
「ほらほら!!」・・とおっしゃった。


「ぎゃああああああああ!どうしよう!!
ノーメークなのに!!!あわわわわわあああわわわわ!!」

ピポ子乱心!!!

ギャラリーの方はピポ子の携帯で写真を撮って下さると言って下さった。

「せせせせせせせせせせせせせせんせい!!私ピポ子です!!!
先生の作品で育ちました!!ブブブブブ・・・ブログを書いてるんですが
写真を載せてもよろしいでしょうか!!!???」

「いいですよ!!どこでも使って下さいね」

もはや白目どころでない。
乱心なのだ。

先生の作品にどれだけ感銘を受けたか、色々言いたいのに言葉にならず。
先生は強く握手をして下さり、しかも優しい。
驚いた事にお年のはずだが、若々しい。しかも・・・
すんごい美形だ!!!!!!

まじ凄い美形です!!!
やばい!!
多才な上に美形!!
神様は卑怯だ!!

20140611ぽーっとしていると、先生が他の2人を指さしておっしゃった。
「こちらはねえ、漫画家のビック錠とお茶漬海苔。」

・・・・ええええええええええっ!!!まじっすかあああああ!!

諸先生がたの漫画は持ってます!!
読んでます!!10代の時から・・・・

ピポ子成仏。

「じゃみんなで写真撮ろうよ!!」

そして、ピポ子は漫画界の大御所と並んで写真撮影。
なんで、こんな日にノーメークなんだ!!!
ノーメークを気にしていると、ビック錠先生が
「大丈夫!!可愛いよ!!」
「イタリアで写真撮ったみたいだね、あははははは!!」

・・・恥ずかしい・・・みんな優しい・・・。

ピポ子は何だか頭に血が上り「私、歌をうたってますピポ!!」
とおかしな事を言い出してしまった。

「へえ・・・そうなんだ!!どんなの?」
「ロック?ポップス?」
「いつ出すの?」
「まあ、ワインでも飲まない?」

ピポ子は頭痛とめまいと興奮で倒れそうになった。

ピポ子がお話している間、別の女性が写真をご依頼され
邪魔しちゃいかんと退くと、先生はピポ子にワインを勧めて下さった。

あれ・・・ピポ子だけ高待遇だあああ・・・
悪いなあ・・・でも嬉しい!!!熱意って伝わるのね。
でも化粧はしとくべきだった・・・ううううう。

お酒は飲める状態でなかったので
先生方と握手をして、これからも応援してますとお辞儀。

「またどこかで会いましょう!」
先生がそうおっしゃって下さったのでこうお答えした。

「必ずお会いします!!必ず!!」

本当なら先生方と飲んだくれて、お話でも出来るチャンスだったのだが
頭痛の所為だけではない、今の私では先生方とお話出来る位置にいない・・・
そう思い遠慮した。

あの原稿を拝見した時驚いたのは
どんな細かいコマも全く手が抜かれてないという事だ。
プロなら当たり前なのかもしれないが、どのコマひとつとっても
それだけで存在出来ている。

・・・今の自分はどうだ。
歌詞を変える事、絵を描く事で手一杯。
自分の世界を作る事にここまでエネルギーを出し尽くしているか!?

そう思ったらまだ同席出来ないと思った。

だから失礼する時に「必ず」と申し上げたのだ。
これから絶対日野先生方と同席出来るくらい
確固たる自分を追求し作り上げないと・・・!!!

それからお客様が増え、ピポ子はギャラリーを後にした。
なんというすごいタイミングで入れたんだろう・・・
ついているとしか言い様がない。

・・・まさに神様がピポ子をここまでお連れになったのだ。

神様・・・へこんですいません。

こんな時だからってわざわざ御膳立てして下さって本当に感謝です。
奇跡はおきるのね。というか奇跡の団子3兄弟である。

日野先生は会場にいらっしゃるのは今日だけだったそうな。
しかもピポ子の仕事がきょうこの時間に終わらなかったら
先生方とお話は出来なかった。

偶然は必然。

気合い入れ直して、先生と対談出来るように頑張ります。

・・・また泣けてきました。


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2013年12月03日

日野日出志日記2 百貫目、優しきマンイーター編

20131204尊敬すべきアーティストを挙げればキリがないけど、日本人の中で思いつくのはやはりホラー漫画家の"日野日出志"先生ね。

これまでに先生の作品は幾つかご紹介してきたけれど、短編集の中でも更に五臓六腑にずっしりと来るこの作品をお薦めしたいわ。それは「百貫目」よ!今作も他の作品同様ホラーというジャンルに分類されているものの、紛れもなく"ヒューマンドラマ"と言えるの。

時は江戸時代…天変地異が続き、人々は飢饉に苦しんでいたわ。百貫もあろうかと思われる巨大な体を持つ少年"あんちゃん"とその小さな兄弟は両親を失い、生きて行くために盗賊となって食べ物や牛や馬を盗むという生活をしていたの。遂に食料も尽き、ひょんなことから手にした着物を売って食料を手に入れようと都へ来たものの、都も貧富の差が激しく悲惨な状況に変わりは無かった。

しかも吹雪で身動きが取れず、あんちゃんの驚異的な食欲で食料は底をついてしまう。兄を思うあまり食べることを我慢していた小さい兄弟達にも我慢の限界が訪れ、兄につい文句を言ってしまうのよ。

己の食欲を恥じた兄は兄弟の為に吹雪の中熊を射止め、その怪我で死を迎えてしまう。臨終の床で彼は泣き叫ぶ小さな兄弟に、彼は自分が死んだらその肉を食らい冬を越せと言うの。

これまで自分が皆の食料を食い尽くしたのだから今度は自分が食われる番だと・・・そして己の血や肉は永遠に皆の中で生き続けると言い残して。やがて食料は底をつき、遂に兄弟達は兄の体を切り刻む瞬間が来るの。

普通ならゾッとする話だけれど、さすがは日野先生!このシーンの描写はなんとも言えない神々しさを感じるわ。仏様のように微笑む兄の遺体を前に、小さな兄弟達にどこが食べたいか聞いていく次男の力強さと兄への敬意は心を奮わせるものがある。

あんちゃんに文句ばかり言っていた彼が精神的にも成長して兄弟を守ろうとする様をこの数コマで見事に表現しているわ。この作品は初期の方に発表されたものなので、いわゆる日野作品のおどろおどろしい質感は無く単純で可愛らしい絵柄ながら、その物語の重厚さは変わらずよ。

他作品でマンイーターの話はどこか嫌な印象が残るけれど、今作は「生きる」事の力強さと肉親への愛がしっかりと描かれているので嫌悪感は全く無いの。もし愛する人が飢えて死と直面していたら、果たして自分はどうするだろう。それは母親が子供を守るのと同じ本能で、ためらうことなく自分を差し出すのだろうか・・・これほどまでに深い愛を私は知らない。次第に外も寒くなって参りましたので、心も温まりたい方は是非読んでみて下さいね。

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2013年03月29日

日野日出志日記1 鬼才の挑戦編

20130329「地獄変」…これほどまでに強烈な作品が発表されていたとは、ただただ驚くばかりよ。

尊敬してやまない日野日出志氏が29年前に発表された代表作のひとつなのだけど、あとがきには「このこわい物語は事実ではなく、著者の創作である」という編集部からの一文が…ホラー漫画なんだから当然なんだけどあえてそう書かないと読者が怯えてしまうという判断したのね。



その内容は実に哲学的で、表現はグロテスクで美しい!ある絵師が血の匂いとその美しさに魅せられ、地獄絵を描き続けているというところから物語は始まり、やがてその作品達がどうやって描かれたかを語っていくというストーリーなの。



家の前にある刑場で落ちてゆく首を見ながら絵を描く主人公、暴力を振るう彼の父、狂った母、肉の塊と化した弟、夜な夜な死者を相手に居酒屋を切り盛りする妻、目玉や死体を集める可愛い子供たち…様々な人間が登場しそれはそれはおぞましい光景が展開するのだけど、その背景には作者の戦争や暴力に対する思いや人間の暖かさを欲する思い、死に向かって加速する自分の中の思いなどがふんだんに折り込まれていて、その深さに思い知らされたわ。



血を吐きながら絵師はラストで「皆死ぬ!」と狂ったように叫び、私たち読者に斧を投げつけるの。紙に印刷された絵のはずなのに、なぜか今でも斧は自分の方に向かって飛んでくるのでは・・と今でも恐怖を覚えるのは、自分が死に向き合えるようになったからなのかもしれない。



これほどまでに内面的な怖さをここまで表現されるなんて、最早為す術無しよ!内容についてもっと書きたいけど、やめておくわね。是非機会があれば皆さんに読んでいただきたいから。



しかし、この当時この作品を生み出した日野先生も鬼才の域を超えてるけど、老舗出版社"ひばり書房"もかなりのチャレンジャーだと思う。この絵師はきっと先生自身…彼の叫びは当時の先生の心の叫びであったであろう事は間違いない!アーティストは自分を削り作品を生み続け、狂気と苦しみの中で表現し浄化を望む・・まったくこの絵師と同じね。

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