ロマン

2016年06月17日

フェルナン・クノップフ日記 幻想ロマンチスト編

20160609

あれは確か20数年前のことだったかしら…学校の授業で見た1枚の絵が非常に印象的で、ことある毎に思い出していたのよ。

画家の名は「フェルナン・クノップフ」・・・1870年から1920年に渡って活躍したベルギー象徴主義のトップ画家であり、モローやクリムトなどにも影響を与えたと言われているわ。

その幻想的且つ神秘的な作品は死や性、眠りなどがモチーフになっているものが多く、中でも妹マルグリッドがモデルを務めた作品はその関係性を含めて有名よ。

クノップフは油彩以外にもパステル、色鉛筆は勿論、写真を取り入れたり、挿絵や衣装デザインも手掛けるという多才ぶり…その卓越した構成力とデザイン力は作品を今なお息づかせ、まるで今の時代に描いたのではないかと思えるほどのモダンさを兼ね備えているのが素晴らしい。

クノップフの名を世に知らしめた1896年発表の「愛撫」は人間の頭部とチーターの体を持つスフィンクスが両性具有的な人物に愛撫するという幻想的な作品で、どちらも最愛の妹マルグリットがモデルになっているの…スフィンクスはうっとりとした表情で快楽に身を任せるけれど人物は無表情で鑑賞者側に視線を送っている…この対照的な2者の葛藤がなんとも言えず叙情的で、クノップフは彼らを通じて己の心の在処を表現したのでは・・・と思わずにはいられない。

しかしながら最も自分を惹きつけてやまなかった作品は…1912年発表の「煙草」…これは彼の晩年に描かれているのだけど、今見ても格好良いとしか言い様がないわ。

ハイカラーのジャケットに身を包んだ女性・・・その蠱惑的な瞳、口元には”噛んだ”細い煙草。吸うのでは無く”噛む”、この所作こそが究極のエロティシズム!全体的に円形で切り取られたデザインにより彼女の髪や胸はカットされ、目線と口元が強調されたことが”艶”をたっぷりと醸し出しているの。クノップフも晩年遂に女性の何たるかを熟知したのかしら、などと邪推してしまうくらい見事な毒婦を描ききっているわ。

個人的に歯を描くというのはコミカルだったりホラー的で、特にこの時代の女性を描く場合にはタブーに近いのかなと思っていたけれど、こうして歯を見せることで色っぽさを感じるというのは、描き手の力量とその物語の奥深さなのだと改めて思い知らされたわよ。

他にも1905年「イゾルデ」もタイトル通り「トリスタンとイゾルデ」の彼女がテーマで、同じく憂いを秘めた目と魅惑的な唇からは零れんばかりの歯が・・・恍惚としたその表情に思わずゴクリ、なの。

非現実、夢想、静寂、虚無、どんな言葉を並び立ててもクノップフの世界は表現しきれない。そこには隣のテーブルからほのかに香る紅茶、ドレスが波打つ度に香る上品な香水、白いレースのカーテンから漂う洗濯糊と太陽、そんな香りが瞬時に感じられるのよね。

絵画はシーンを切り取るだけで無く香りさえも感じさせてくれるわ…でもそれは画家本人の描く世界に招待された時だけなのかも・・・ジャンルは関係なく、そんな風に五感をフル活動させられる作品を生み出す事が出来る事こそが表現なのね・・・うーむ、深い。

pipopipotv at 00:00|PermalinkComments(0)