ジパングナイト

2015年05月25日

日野日出志日記5 ジパングナイト編

201505191997年発刊の日野日出志先生作品集「ジパングナイト」…短編9話というボリュームながら内容は更に濃厚よ。ティーン向けの雑誌に初出された作品ばかりなので、比較的分かりやすいストーリーではあるもののその切り口はさすが!のひと言ね。

どの作品も都会に生きる人間達の悲しさや苦しみが描かれていて、ストーリー展開が簡潔であっても重みは失われていない。ネズミを愛するが故にいじめられ自らネズミになった少女、家族の期待を背負い猛勉強をしたあまり頭が支えられないくらい肥大した少年、マンションの一室でひっそり子供を産みひっそり死んでいった母子、親より早死にしてしまった子供達が地獄に行くまでの準備をするクラス”死組”など着眼点が実にお見事よ。

しかし従来の日野作品から比較すると、より現代に近い時代背景に設定されていたり、画風も悪い意味で丁寧になっていたりと、ご本人の思惑ではない部分が見え隠れすると同時に若干線の威力が失われている感は否めないのが残念ね。

お気に入りは『うしろの正面』

ある朝、首だけが後ろ向きになってしまった少女が色々な病院で治療を受けたけど効果はなく、睡眠療法を試みたところ、少女が心に大きな問題を抱えていたことが判明したわ。神童と呼ばれるくらい優秀だった少女は家族に期待されたのだけど、4年生になると同時に成績がガタ落ちに。家族や周囲の態度は一変し、そこから少女の苦悩と復讐が始まったの。

結局少女の首は完治したけど、その為には贄が必要だった・・・!彼女は己の欲望を満たす為に心まで後ろ向きになってしまったのよ。しかしながら、このお話は学校だけでなく会社や家庭でも置き換えられる話だわ。自分の能力が発揮できてるうちは誰もが賞賛し認めてくれる。しかしそこから転落し、仕事や地位やお金を失った時に助けてくれる人は殆どいない・・・実に悔しく悲しい事だけど、誰にでも起こりうる事ではあるものよ。

地に落ちて初めて人間の妬み嫉み、自責の念の洗礼を受け、最終的に死を見つめるようになる。でもそこから這い上がって来た者こそ今生に生きる権利があるのだ、と日野先生は私達読者に訴えかけている気がしてならない。本当の強さとは人に認めてもらうことでは無く、まずは自身を己が認めるところから始まるのではないだろうか。

その他にもエコロジーを訴えながら結局都会でしか生きられない事を悟った都会育ちの家族など、現代に警鐘を鳴らす作品が目白押し!もしかしたらこの作品すべてが先生自身を反映させているのでは無いか・・・と思わずにいられない。ただただ今自分が生きているという”事実”をリアルに受け止めさせられてしまった、というのが感想ね。煉獄に生きるためのバイブル・・・それが日野作品だ!

pipopipotv at 00:00|PermalinkComments(2)