ご本

2014年12月16日

池田理代子日記2 悪魔の娘…あやこ編

20141215池田理代子先生という人は漫画家ではない。彼女の才能は計り知れない・・・脚本力、画力、音楽、全ての芸術的要素が備わった”アーティスト”と呼ぶべきね。

先週に引き続き、池田先生の作品をご紹介!!…彼女の作品は数あれど、1979年発表の作品「妖子(あやこ)」は特に素晴らしい。画風が最近の作品に近い大人びた仕上がりになっている分、物語のダークさが強調され少女漫画の域を超えているわ。

主人公の妖子は女囚と悪魔との間に出来た子供なの。しかし女囚は自分を受け入れてくれなかった世の中に対する報復として、病院で華族の娘とすり替え由緒ある家のお嬢様として育てられるようにしたのよ。

何も知らない本人と華族の夫婦は幸せに暮らしていたけれど、妖子の主治医がその事実に気付き彼女を悪魔の子だと証明しようとするの。家を守る為、華族夫婦は大事に育ててきた妖子を殺そうと主治医と手を組んでしまう。

昨日まで幸せは消え、優しかった両親から命を守る生活が始まった妖子。しかし彼女の中で魔の部分が目覚めてゆき、自分を陥れる者たちを次々と闇へ葬る術を身につけていく・・というお話なんだけど、妖子が悪魔的パワーで相手を殺したり、呪ったりするかと思ったら大間違い。

そういった描写をしてしまうと安っぽい三流アニメになってしまうわ。彼女は自分を守る為知恵を働かせ、理知的にすべてのことを進めて行くのだけど、その手際が実に鮮やかで美しい。妖子は半分人間であるから、母親譲りのサバイバル的本能が彼女を救っているのだと考えると、何だか感慨深いわ。

本編のテーマとして、この悪魔の子が自らの力で人間を追いつめていく部分ではなく、愛を得たくても得られない苦しみにもがく純粋な部分を表現してるのが本当にお見事なのよ。

悪魔なのに純粋・・?と思う方もいらっしゃるでしょうけど、彼女は周囲の人間の欲や悪意と戦う為に、自分のダークサイドを開放するしかなかった・・それだけなのね。悪魔も女囚のそんな哀しい部分を見抜いたからこそ妖子を身籠もらせたに違いないわ。

この世で本当に恐ろしいのは悪魔でも妖怪でもない。欲を持ち保身や目的達成の為にだけに生きる人間が一番怖いのよ。この作品を読んだのは今がら10年以上も前だけど、読者にそんな考えを起こさせる池田先生が・・・実は悪魔なのかもしれないわねえ。

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2014年12月12日

ホークアイ日記 非凡で平凡なアベンジャーズ編

20141211誕生日に、ずっと読みたかった「Hawk eye:MY LIFE AS A WEAPON」を頂いたわ!!…「アベンジャーズ」の一員であるホークアイに焦点を当てた作品なのだけど、この表紙とタイトルを一目見て気になって仕方が無かったの。

映画ではジェレミー・レナーが彼を演じ、そのはまりぶりに人気は急上昇!しかしながらこのホークアイ、メンバー内では普通の人間なのよね。ソーやキャプテン・アメリカ、ハルクにアイアンマンは天才的頭脳や人智を越えたパワーの持ち主(しかも神もいる!)、ブラック・ウィドウも普通の人間だけどある意味無敵だし、彼は唯一千里眼と弓矢で立ち向かう努力家、という地味なポジションよ。

タイトルから兵器として生きるホークアイの”哀”の部分がピックアップされているかと思いきや、彼の人間臭い日常的な部分が描かれていて更に好感度アップね。

アメコミの面白いところは何人かの作家で構成されている事だけど、今回も3人の描き手のうち一番最初の章を手掛けたデイビット・アジャ氏の絵柄は最も魅力的だったわ。アメコミ特有のリアルさはないものの、版画の様な粗い線の中に繊細な表情がきっちり描かれ、ブルースを聴いたときのような”沁みる”格好良さ、といった感じ。

更にひとつのワードを呟く間に起こった出来事をコマ送り仕様で細分割したり、電話での対話シーンではお互いを挟み画面中央に小さなコマを積み上げたりと、ページ毎の構成の自由度が高く凝っているのが素晴らしいわ!

物語は、ホークアイが戦闘中に恐怖心を覚えつつ落下するシーンから始まるの。映画などではどんな局面でもクールに対応するというイメージだけど、やはり彼も人間・・・病院にも行くし、車椅子も使うし、タクシーの運転手ともケンカするといった具合よ。そして住んでいるアパートの大家の雇っているチンピラと対決したり、ピザを食べたり、重傷の犬を助けたりと、色々なトラブルに巻き込まれつつものんびりと生きている様子が良い。

今回はもう一人のホークアイでもあるケイト・ビショップが登場し、その凸凹コンビぶりも微笑ましいわ。アメコミは相当な数の作品が存在し、アベンジャーズ全員の生い立ちや人間関係を網羅するのは難しいけれど、今作のように単体でもなんとか理解出来る設定になっていると助かるのよね。

ホークアイ=クリント・バートン…今後彼が画面に登場する際、クールな面持ちの下にこれほどまでに人間臭い感情を押し隠しているのだと思えて、今まで以上に応援したくなってしまう。派手なアクションはなくとも、ずば抜けた活躍はなくとも、あなたがいなければアベンジャーズは成り立ちません。頑張れ!ホークアイ!

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2014年12月09日

池田理代子日記1 ウェディングドレス…青春で得たキャリア編

20141209敬愛する池田理代子先生の後期作品「ウェディングドレス」…当時はこの作品を読んでもピン!と来なかったけど、今は年を重ねて痛いほど理解出来る。

結婚に対する願望、絶望、自立、友情…女性誰もが抱える葛藤がテーマになっており、これらが池田先生の視点で鋭く描かれているわ。漫画家として大成されている先生も、こんな葛藤と戦いながら日々仕事に追われていたのかしら・・なんて想像しながら読み進めていくうちに自分の姿と重なり、なんとも言えない寂寥感を感じてしまう。ストーリーは淡々とした日常を描いているのだけど、これが実にお見事なの。

高級洋装店のチーフである中年女性、徳子は同店に勤める6つ年下のお針子の美也子と同居していたわ。やがて彼女は兄と同居する事になり徳子のアパートを出る事に。寂しくなった徳子は美也子の兄に文句でも言おうと新居を訪れるけど、とても純粋でシャイな兄に毒気を抜かれてしまう。そのうち美也子が結婚し、ますます孤独感にさいなまれた徳子は兄に親しみを覚え、やがてその思いは恋心に変わっていったの。

だけど、兄は彼女に残酷な依頼をするのよ。「自分のフィアンセにウェディングドレスを作って欲しい」と。ショックを受けた徳子は、婚約者のドレスに細工をして恥をかかせようと企むけど気持ちは晴れない。そんな時、職場のボスから緊急の仕事の連絡が入るの。

「あなたのキャリアは何にもかえ難い、あなたの腕は黙って信頼出来る」そのボスの言葉に、嫉妬心からおかした愚行が己のキャリアを踏みにじる行為なのだと気付き、徳子はフィアンセの家へドレスを直しに行く事に。自分の青春全てを仕事に捧げてきた誇りと、女性としての幸せを得られない寂しさ・・そんな両局面の感情と戦う徳子の生身の人間臭さが身につまされるようであり、可愛らしく思えるわ。

彼女が部屋で独りミシンだけ踏んで、男性から愛を語られた事もない青春時代を呪い「みじめったらしいつまんない人生・・ばかばかしい30年・・ばかばかしい青春!!」と泣き叫ぶシーンは心臓をえぐられるような共感を覚えてしまった。彼女の劇中の発言はとにかく自然で”生きている”のよ。これは実際にそんなシチュエーションに遭遇したり、そんな絶望的感情を自分が感じない限り出てこない言葉や行動であることは確か。その点に於いても、池田作品の中で最も超リアル且つ人間臭い作品であると言えるわ。

ようやく女性もキャリアアップ出来る時代になったけれど、仕事と結婚、両方を成功させるというのは不可能よ。仕事が出来る事は幸せだけど、年を経て行くにつれ別の不安が募るもの事実よね。女性の幸せの象徴であるウェディングドレス…それをいつ身に付けるかは自分次第。仕事か結婚か、さぁどちらの道を選ぶ?

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2014年07月07日

猫のダルシーの物語日記 愛は哀に勝るもの編

20140705"泣ける話"とか"泣ける本"なんて良く聞くけど、こう言った書評をするのは嫌だわ。だって、はなから"泣くぞ!"と準備しているようなものですもの。

しかし、しかし・・この本はわかっていたけど読んでしまった。「a CAT'S life ~あたしの一生 猫のダルシーの物語」…タイトルからして大雨注意報の予感よ。生まれたばかりの白と黒のまだら模様の雌猫ダルシニア、通称ダルシーは人間の女性と出会い引き取られる事になったの。一見人間がダルシーを選んでいるようだけど、本当は彼女が人間を選んでいたのよ。

この物語は全てがダルシーの視点で描かれているのだけど、江國香織さんの訳がテンポ良く、シーン毎の情景をパッと思い浮かばせてしまうからお見事。ダルシーは飼い主を『あたしの人間』と呼び、しもべだと思っているの。だから人間が『あたしの仔猫よ』と言うと腹を立たせてしまう。けれど彼女が囁く愛の言葉はダルシーを優しく包み、その絆をより深いものにして行ったわ。

ある時飼い主が友人との付合いを優先し家を数日空けた時、ダルシーは不安で餌も喉に通らなかったの。やっと帰ってきた彼女に甘えながらも、きちんと人間を教育しなくては・・と勝ち気な考えを持ったりする。でもこれらはあくまで人間の勝手な思い込みで描かれてるけど、必ずしもダルシーの感情は思い込みとは言い切れないわ。

家には3匹猫がいるのだけど、物語を読み進めて行くうちに「ああ...うちの子もこんな風に思ってるかも」と思い当たる節満載なんだもの。これほどまでに猫に愛情を持っていなければこの作品は生まれなかったでしょうね。

どのページを開けても日だまりのような暖かい愛でいっぱい。言葉で意志疎通が出来ない分心を通じ合わせられている証拠だわ。果たして人間同士寄り添って生きたとしても、ここまでの濃厚な愛を与え合う事が出来るのだろうか・・。うちの猫達も長生きして欲しいなぁ~あ、ドライ出さなくちゃ。

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2014年06月05日

猫問答日記 母の心で・・編

20140605現在、家には猫が3匹…みんな訳ありの猫たちで子猫の時に虐待されりとかで人間不信だったりとか、川に捨てられる直前だったとか・・。

猫も人間同様な病気になるけど、人間のように体の不調を伝える事ができないので、日頃からチェックが欠かせない…そんな時に昨日ご紹介した個性派獣医、野村潤一郎先生の著者「Dr.野村の猫に関する100問100答」を読んだわ!

いや~タイトル通り質問形式で書かれているのだけど、短編集を読んでいるみたいで面白い。

野村先生は書店に多く見られる、無難な話題に終始する内容や飼い主を不安にさせるだけの医学知識等で綴られた動物本とは一線を画した本作りを目指されたそうなのだけど、実に他と差別化された温度の伝わってくる"熱い本"に仕上がってるわ!

本文のイラストも、先生自身が仕事の合間に描かれた作品で構成されいて実にユニーク…いや多才ですな!

100問も質問があると中には『何でこんな質問してくるの?』という内容のものもあるけど、一刀両断回答でテンポ良く解決してくれるわ。文中で先生の幼少時代、人間も動物も分け隔てなく路地裏等で遊んでいたのに今はそういった触れ合いが無いため『何か言葉だけが空しく綺麗になって、やっている事は汚くなっている気がする』と書かれていた章があるの。全くその通りだと思うわ!

特に最近は親が過剰になり、動物にちょっとでもケガをさせられたらすぐ保健所に連絡なんてパターンが多いみたいだし、昔は誰々さん家の猫ちゃん、何処何処のワンちゃんと、町内で家族同然に動物の存在も大きかったけど、今ではお隣同士も知らない有り様ですものね。こういった本をきっかけに、更に町中の人達が野良ちゃん達に"母の気持ち"で接してもらえるようになったら素敵だわ…(=^..^=)ニャッニャーン!

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2014年02月22日

フランク・ハーバート日記1 読破への道編

20140219先日ご案内した「ポドロフスキーのDUNE」の原作で、SFの古典的長編名作と称賛されるフランク・ハーバートの「砂の惑星」…1984年にデヴィッド・リンチによって映画化され、近年では米TVシリーズとして「砂の惑星-砂丘の子供たち-」も映像化されているわ。

3年ほど前に、ふと原作を読みたくなってamazon中古本を検索してみたのよ…そこで¥1と表示のあった中から、文書の丁寧なshopを選び購入…後日届いた包みを開封してビックリ・・な、な、なんと初期の版で表紙と挿絵が石ノ森章太郎だったの!!特に挿絵のインパクトには驚きよ。

「サイボーグ009」を彷彿とさせる点描で描かれた挿絵はどれも懐かしさを抱かせるものばかりで、まさかこの作品で石ノ森ワールドを堪能出来るとは二度、いや三度おいしいとしか言いようが無いわ。このshopはこの本を¥1で提供して良かったのか!?と、肝心の中身より挿絵に驚いてしまったわけですね。

で、その全貌なんですが「砂の惑星」は1965~85年に全6部構成で出版されていて、終わりそうで終わらないこの物語は、彼の死後、子供のブライアン・ハーバートによって引き継がれて「DUNEへの道」として今も描かれ続けているわ。

実は若い頃に一度読み始めた事があったのだけど、表現の難しさとあまりにも先が長いので断念…今度は全巻読破してやるつもりよ!!…でも石ノ森バージョンがいいなぁ~。

SFマニアではこれを読破した人は"神"扱いされるとの事…PIPOKOが神になったらまたご紹介するわね・・と言って既に3年が経過してますが…(*_*;;)

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2014年01月20日

三島由紀夫日記1 自立と孤独と配分編

20140116「三島由紀夫」という人はどこまで読者を驚かせてくれるのか…毎回初対面の作品とお手合わせ願う際、期待と畏怖の念で一杯になるわ。

胃がもたれるような重い内容の作品が大好物だけど『肉体の学校』はライトなようでじっとり重い絶妙な配合だったの。



タイトルから得る印象はちょっとエロティックではあるけど、内容は全く異なり、現代の女性もうんうんと大きく頷かされるであろう位共感できるものよ!

物語は離婚して企業した女性たち3人が主役。映画批評家、レストランオーナー、デザイナーという各分野で大成功を収めた彼女達は、月一回の定例会"年増園"を開催し近況を報告し合うという仲良し。



話題の中心は男性で、いつも自信満々の彼女達は恋を仕事の潤滑油にしていたわ。しかしデザイナーでもと貴族の妙子は、ゲイバーに勤める美形の青年に惚れ込んでしまうの。青年の思惑、妙子の恋愛観の変化、恋の駆け引き・・そして女友達の友情、あれっ?どこかで聞いた話だと思った方はいらっしゃるんじゃない?



そう!まさに日本版「SEX and the CITY」なのよ!!しかしこの作品が発表されたのは1964年…女性が企業するというのは今でこそ日本で認められつつあるけど、45年も前に自立する女性像をこれほどまでに自然な形で描く事の出来る三島氏は、やはり先見の目があったからなのね。納得!



恋愛、結婚、子育てと女性のステージは様変わりするものの、そこに"仕事"という項目が加わった段階で、背後に"孤独"が見え隠れする気がするのよね・・フフ。

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2014年01月18日

新子連れ狼日記 ちゃんからてちょへ・・・編

20140115

名作「子連れ狼」の続編である「新・子連れ狼」…噂には聞いていたけれど、まだ読んだことがなかったので愛蔵版リリースを機に一気に大人買いして読み切ったわ。

原作は勿論、前回に引き続き小池一夫氏、作画は今回、森秀樹氏が担当よ。物語は八丁河岸での拜一刀と柳生烈堂の死闘後からスタート。父の亡骸の前で力尽きてしまった大五郎は、偶然通りかかった元薩摩藩士の東郷重位に助けられ、父と烈堂を荼毘に付す事が出来たの。

重位は武者修行で全国を旅していたのだけれど、自分と一刀の愛刀が同じ同太貫であり、一刀の鞘に自分の刀が寸分狂わず納まること、大五郎の幼いながらも武士魂を持つ姿勢に因縁を感じ、共に旅することになったわ。重位は薩摩示現流の開祖で、薩摩藩の藩主・島津光久の剣術指南役を務めていたほどの名手で、大五郎は道々彼からスパルタ的指導を受けながら剣士として成長していくのよ。

そんな中、島津家を断絶させようとする老中松平伊豆守の陰謀に巻き込まれ、新たに親子となった2人は再び冥府魔道の道を歩むことになったわ。今回は己の性を自在に変幻可能の能力を持つ忍、自分の顔を焼き切り息子を刺客にしてまで自分の欲を満たそうとする松平伊豆守、敵を愛し老いても尚その愛を貫いた女剣士など、登場人物たちの悲しく過酷な人生がたっぷりと描かれているのだけど、前作の様に個々に際立った感じはない気がするのよね。

登場するロシア人女性のネーミングもミラ・ジョボビッチ、となんだか直球すぎる感も否めない。しかしながら、前作の小島剛夕氏の作画スタイルを踏襲しているかのような森氏の劇画タッチと構成力は圧巻よ!両雄とも筆と墨の魔術師と言って良いほど、このアイテムだけでダイナミックに躍動感溢れる線を表現しているのよね。

小島氏は筆で大胆さとスピードを、森氏は大胆な中にも細やかな美しさと度肝を抜く構図と、腹立たしい程のレベルの高さよ。相も変わらず穏やかな生活を送ることを許されない大五郎・・・またもや刺客に狙われる日々を送るわけだけど、"ちゃん"である一刀は無口で身を以て剣のなんたるかを教えるのに対し、"てちょ"になった重位はよく話し、厳しいながらも最後は大五郎を暖かく包んでくれる。

同じく過酷な境遇ではあるけれど、今回、本当の親子の様に感情をぶつけ合っている2人を見てなんだかほっとしてしまったわ・・・心なしか大五郎の表情も明るい気がするの。重位の武士としての姿勢は一刀同様筋が通っており、剣を持つ者としての重さや魂の部分は、現在をただ安穏と生きてしまっている自分に渇を入れてくれるわ。「子連れ狼」は自分にとって人生のバイブルであり、ものづくり刺激剤でもあるのよね。

今作のラストは又もや・・・の結末だけど、次のシリーズに繋がるエンディングなのでまた大人買いしちゃおうかしら。大五郎!とにかく幸せになって。お母さんは心配です・・・。

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2014年01月17日

子連れ狼日記6 愛蔵版は人生のバイブル編

20140114

名作と謳われる作品には幾つかの特徴があるもの。それはストーリーであったり登場人物であったり、様々な要素が挙げられるけれど、特に重要なのは「如何に物語の中でキャラクター達が生きているか」という事に尽きる気がしてならないのよね。

このブログで幾度となくご紹介してきた名作「子連れ狼」…その映像の素晴らしさは勿論だけど、その源である原作は日本の財産と言うべきか・・・。ストーリーも見事ながら、その作画力は驚異としか言いようが無い。

ページをめくる度、キャラクター達の息遣いが感じられるほど"生きて"いるのよ!原作はお馴染みの小池一夫氏、そして作画は小島剛夕氏というゴールデンコンビ。小島氏に関しては殆ど存じ上げなかったけれど、筆を駆使した大胆なタッチとスピード感、そして太い筆遣いの中にキラリと光る艶に一瞬にして魅了されてしまうわ。

個人的に好きな白土三平氏の作画に酷似している部分もあるな、と思っていたら白土氏の代表作である「カムイ伝」の作画も担当していた時期もあったと知り、ビックリ!小島氏は紙芝居から貸本屋、そして青年漫画とまさに漫画の生き証人のような作家であり、その遍歴が本作により深みと命を与えたのだと痛感したわよ。

コマ割りは非常にシンプルながら、その枠内では留まらない奥行きと重厚感に引き込まれるわ。勿論スクリーントーンはほぼ使用せず、陰影も大胆な描き込みで無駄の無い美しさ。こんな線が描けるようになったら・・・出来るなら、生涯かけて追求したいものだわ。愛蔵版は全部で20巻有り、当然のことながら全巻揃えたのだけれど、それぞれの表紙絵もレイアウトも素晴らしくてため息もの。

しかもよくもまあ、これだけのストーリーと余すところなく表現出来るものなのだなと、ただただ感心するばかり。前回もご紹介したけれど、主人公・拜一刀の敵方の一人であった阿部頼母が切腹するシーンは壮絶ね。僅か数ページで切腹という行為への怯え、刑を敢行させようとする周囲の武士への怒り、一刀に諭され死を受け入れるまでの頼母の心の推移が心に響き伝わって来るの。

紙と墨、このモノクロの世界がこれほどまでに人の心の明暗を描き出せるなんて…まさに神業よ!1度読み始めたらページをめくる手が止まらなくなるわ。最早「子連れ狼」は人生のバイブル…1家族に1セット必須になる日は近い。

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2013年12月03日

日野日出志日記2 百貫目、優しきマンイーター編

20131204尊敬すべきアーティストを挙げればキリがないけど、日本人の中で思いつくのはやはりホラー漫画家の"日野日出志"先生ね。

これまでに先生の作品は幾つかご紹介してきたけれど、短編集の中でも更に五臓六腑にずっしりと来るこの作品をお薦めしたいわ。それは「百貫目」よ!今作も他の作品同様ホラーというジャンルに分類されているものの、紛れもなく"ヒューマンドラマ"と言えるの。

時は江戸時代…天変地異が続き、人々は飢饉に苦しんでいたわ。百貫もあろうかと思われる巨大な体を持つ少年"あんちゃん"とその小さな兄弟は両親を失い、生きて行くために盗賊となって食べ物や牛や馬を盗むという生活をしていたの。遂に食料も尽き、ひょんなことから手にした着物を売って食料を手に入れようと都へ来たものの、都も貧富の差が激しく悲惨な状況に変わりは無かった。

しかも吹雪で身動きが取れず、あんちゃんの驚異的な食欲で食料は底をついてしまう。兄を思うあまり食べることを我慢していた小さい兄弟達にも我慢の限界が訪れ、兄につい文句を言ってしまうのよ。

己の食欲を恥じた兄は兄弟の為に吹雪の中熊を射止め、その怪我で死を迎えてしまう。臨終の床で彼は泣き叫ぶ小さな兄弟に、彼は自分が死んだらその肉を食らい冬を越せと言うの。

これまで自分が皆の食料を食い尽くしたのだから今度は自分が食われる番だと・・・そして己の血や肉は永遠に皆の中で生き続けると言い残して。やがて食料は底をつき、遂に兄弟達は兄の体を切り刻む瞬間が来るの。

普通ならゾッとする話だけれど、さすがは日野先生!このシーンの描写はなんとも言えない神々しさを感じるわ。仏様のように微笑む兄の遺体を前に、小さな兄弟達にどこが食べたいか聞いていく次男の力強さと兄への敬意は心を奮わせるものがある。

あんちゃんに文句ばかり言っていた彼が精神的にも成長して兄弟を守ろうとする様をこの数コマで見事に表現しているわ。この作品は初期の方に発表されたものなので、いわゆる日野作品のおどろおどろしい質感は無く単純で可愛らしい絵柄ながら、その物語の重厚さは変わらずよ。

他作品でマンイーターの話はどこか嫌な印象が残るけれど、今作は「生きる」事の力強さと肉親への愛がしっかりと描かれているので嫌悪感は全く無いの。もし愛する人が飢えて死と直面していたら、果たして自分はどうするだろう。それは母親が子供を守るのと同じ本能で、ためらうことなく自分を差し出すのだろうか・・・これほどまでに深い愛を私は知らない。次第に外も寒くなって参りましたので、心も温まりたい方は是非読んでみて下さいね。

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2013年10月11日

人が死ぬときに後悔する34のリスト日記 クオリティ・オブ・デス編

20131011人間は、必ず死を迎えるわ…それはある日突然訪れるかもしれないし、医師から宣告を受ける場合もある。

一番望ましいのは、ある程度の寿命を全うして静かに旅立つというパターンだけれど、食生活やストレスなど現代人が病に冒される要素は確実に増え、そんな静かな死を迎えるというのは難しくなってきたかもね。

自分のタイムリミットを知ったとしたら、果たして冷静に残りの人生を送ることが出来るのだろうか・・・そんなことを考えていたら、ある1冊の本に出会ったの。医学博士であり、自然医療研究所クリニックの所長でもある川嶋朗氏の「人が死ぬときに後悔する34のリスト」という著書よ。

タイトルがユニークだな、と思って手に取ったのだけれど、この本では川嶋氏が実際に出会った患者さんとのやり取りがピックアップされているの。最近癌で亡くなった中村勘三郎氏との経緯も記されていて実に興味深いわ。この著書では病気と向かい合い闘おう、生きる気力を持とう、といったような表面的な慰めは記されておらず、いかに"質の高い死"(クオリティ・オブ・デス)を迎えるべきなのかという事を中心に語られているのよ。

私たちは、体調を崩せば嫌でも病院に足を運ぶわよね。そこで医師に全幅の信頼をおいてしまうけれど、必ずしもそれが正解とは限らない。現代医学の主流とされる西洋医学は心と体を別のものとして考える為、精神的な部分を度外視されがちだわ。自分自身、この数年間で身内や友人を病で見送ったけれど、残念なのは治療の痛みより精神的なストレスの影響が大きかったという事よ。まさに病は気から・・・という言葉通りね。

病気は遺伝的なものや生活習慣から発症してしまうのが主な理由なれど、精神面が大きく影響するという事を身を以て確信したの。川嶋氏は心と体は連動しているので、"何故病気になったのか"という根本的な理由をその両面から探らなければ治療は出来ないと語っているのだけど、本当にその通りだと思うのよ。

医師から宣告を受けてしまった患者が回復するという現象は、病気になることで自分の生き方や考え方を真剣に向き合おうとする精神力が治癒力を高める結果に繋がるというのも頷ける。川嶋氏自身も足の腫瘍で苦しみ、医師から見込み無しと言われたことが原因で医学の道へ進んだそうなの。

西洋医学や代替え医療に加え持論を実践し、今ではすっかり痛みを克服したというから説得力があるわ。著書の中で最も考えさせられたのは、常に自分の理想的な死を考え、「死の質」(クオリティ・オブ・デス)を高く保ったまま死を迎えることが理想的である、というメインテーマよ。

辛い治療を行ったりしていると人間らしい生活の質も保てないし、家族やお金の事なども心配・・・悪循環の中で死を迎えてしまう事になってしまう・・・それだけは避けたいものよね。結局、病気は本人がつくるもの。まずは健康なうちに、後悔なく生きるためにはどうしたらいいかを考えるべきだわ。そのヒントを提示するために書かれた本書、秋の夜長の1冊に加えてみてね。

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2013年09月13日

愛しすぎた男日記 愛と狂気の狭間で・・・編

20130910パトリシア・ハイスミス著「愛しすぎた男」…10年ほど前、タイトルに惹かれて購入したものの読まずじまいだったのを思いだし、ページをパラパラ…1960年の作品とは思えない新鮮さに思わず一気読みよ。

対訳は少し硬い感じがするけれど、ミステリーらしい、じわじわとした緊張感があってすぐに引き込まれていったわ。物語の主人公は、ニューヨーク郊外の紡績工場勤務の技術者デイヴィッド。彼は週末になると下宿を出て、恋人アナベルと過ごすために購入した郊外の一軒家へ訪れていたの。

しかし実際のアナベルは既に結婚していて、子供も生まればかり。それを知りつつもデイヴィットは仮想世界で彼女との甘い生活を楽しみ、その一方で現実の彼女への手紙を書き連ねて結婚しようと訴える。アナベルはデイヴィットの一方的な愛に困惑し、やがて妄想を現実にしようとする彼の狂気が悲劇のループを生みだしてしまった・・・というストーリーよ。

作品の発表時"ストーカー"という言葉は存在しなかっただろうけれど、こういった愛の形を題材にするなんて斬新。人間の偏執的な欲望というものはいつの世も変わらないもの・・・時として、自分の思い描く結果を得るため行動するというのは必要な事だけれど、相手のことを考えず独りよがりになってしまえば孤立してしまうわね。社会生活を営むためにはこの部分をよく理解すべきだけれど、最近ネットの普及なども影響して、そんな意識が希薄になっている気がする・・・怖いわ。

主人公ディヴィットは決して悪者では無いし、寡黙だけれど友人や下宿のお年寄りにも優しく接していたの。ただアナベルのことになると豹変し、彼女の夫や親に対しては異様な程の敵意をむき出しにするわ。結果彼は3つの悲劇を招いてしまったけれど、うち2つはデイヴィットが友人とコミュニケーションさえ取れていれば起こらなかったものよ。その後味の悪さと言ったら・・・!でも、この苦みが本編の魅力的な部分である事は否めない。

個人的にミステリー小説に不可欠だと思うのは、テンポ良い展開、見えそうで見えない犯人像、エッセンスとしてのロマンスなんだけど、この作品ではどの要素も見当たらないのよね。だからこそ魅惑的だと言えるわ!しかしながら、これもひとつの愛の形…人は恋をすれば誰でもストーカーになり得るんじゃないのかしらね。そうならないためにもまずは女子会で恋バナでも・・・ほほほ。

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2013年07月31日

宇野亜喜良日記 戒めの絵本編

20130723友人のリリーは画家の宇野亜喜良が好きで、彼が江國香織の物語の挿絵を担当した本があると言って貸してくれたの。



タイトルは「あかるい箱」



宇野氏の絵はスタイリッシュな色気があるし、江國さんの物語も非常に強い内面世界を表現しているので"大人の絵本"と呼ぶべきかも。



物語は、ある新しいマンションに越してきた少女が体験する不思議な出来事が描かれているわ。

少女は、父にも母にも見えない隣の部屋の一人暮らしの女性リリコさんと親しくなったの。彼女は別れた恋人をずっと部屋で待っており、その時の感情で部屋の中を吹雪にしたり南国の海にしたりしてしまう。



やがて少女はリリコさんと共に過ごす時間が長くなっていったわ。そして彼女は自分やリリコさん、大勢の住人達が己をこの空間に"自縛"していることに気付くの。抜け出る方法はひとつ・・待ち人からのコンタクトよ!確かに、少女はクラスメートの島本君からの手紙を待っていた・・というお話なの。



読み終えると、なんだか重たいものが引っかかってきたわ。確かに人間は何かを待ち続けている…それはチャンスだったり、夢だったり、愛だったり。そうして年月を重ねても待ち続けているだけだと、いつしか己を縛り付けて動けなくしてしまうのも確かね。



自分がどう生きたいのか、その為にはどうするべきか・・自分の内面に問いかける為の自戒本と言って良いかもしれない。テーマは決して軽くはないけど、宇野氏お得意のポスターのような表現や、写実的でありながらデザイン的なラインや優しい色使いは物語を更に深いゾーンにまで誘ってくれるの。



リリーがフランスに絵の勉強に行く間この本を預かる約束をしたのだけど、この本が彼女の手を一端離れたのは、リリー自身が自分の人生を確実に切り開いているからなのかも・・ということは・・。

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2013年06月28日

一条ゆかり日記 超越ソープディッシュ編

20130627漫画家、一条ゆかり嬢の代表作「デザイナー!」を久々にじっくり読んだわ。

1970年代に発表された日本のコンテンツを改めて見てみると、本当に個性的で容赦の無い内容が多いのよね。この作品は少女漫画の金字塔的作品のひとつだけれど、今作は今まで読んだ漫画の中でベスト5に入るくらいの後味の悪さ…ソープディッシュも顔負けのヘヴィーさよ。

物語は、超絶美女のスーパーモデル亜美が、自分を捨てた母親を探し復讐を誓いつつ日々淡々と生きている所から始まるの。亜美は友人も恋人も作らずただ仕事をこなし、一流モデルとしての位置を確立したわ。ある日偶然、自分が忌み嫌っていた同じ業界のトップデザイナー鳳麗香が自分の母親だと知り、ショックを受け事故に遭い、モデルとして再起不能に。

しかし、絶望に打ちのめされる亜美の前に若き投資家、朱鷺が現れ、鳳麗香に復讐したいなら協力すると言い出すの。が、彼の条件は、たったの1ヶ月で全てをマスターし、コレクションを発表して鳳麗香に立ち向かえという厳しいものだった。亜美は母親への憎悪だけを支えに努力を重ね、プロのデザイナーとして生まれ変わったの!やがて鳳麗香は亜美の才能と朱鷺の戦略の前に敗北し、復讐は成し遂げられたわ。

お互いにどことなく似ている亜美と朱鷺…やがて彼らは惹かれ合い、ようやく見つけた幸せを育てて行こうとするのだけれど、なんと2人は鳳麗香が捨てた双子だったの!事実を知った亜美は、朱鷺の為に作ったウェディングドレスを着て自殺を図り、朱鷺はそのショックで後退性痴呆症になり廃人に・・・という何の希望も見いだせない不幸絵巻よ。

でもその不幸は亜美自身が呼び込んでいるの。それ以前に心を許した雑誌の編集長が自分の父親だったり、側ですっと見守っていてくれたカメラマンの明の気持ちに気付きつつも拒絶…本人のストイックさが原因なのよね。朱鷺も孤児院からその才能を買われある財閥のトップの養子となり、愛を知らずに成長したわ。

彼自身を投資家として育てたのは左腕の征(まさき)。長髪でミステリアスな彼は朱鷺を愛し、ここでもまた禁断のトライアングルが勃発よ!冷静に見れば、亜美も朱鷺もその性格と環境から不幸になるのは必然、人を愛するという事をわからないまま歩んできた者同士が結ばれただけに過ぎない。今作で一体誰が一番幸せなのかと聞かれれば、皮肉なことにこの征と鳳麗香なのよね。

征はこれで愛する朱鷺を誰にも奪われず一生愛し続けることが出来るし、鳳麗香は亜美のお陰で自分の才能の限界を知り、更に開花させるためにフランスに渡り、デザイナーとして生きている訳だから。近親相姦、BL、モラハラと、今でこそレディコミというジャンルが確立されているから今作はそこに位置するだろうけれど、当時の少女誌で連載されていたというのは衝撃よ!

とにかく線が綺麗で、登場するキャラも非常に魅力的で活き活きしているのはさすが!ファッションも70年代当時のものが様々に描かれ、見ているだけでも楽しいのよね。現代のレディコミは性的な描写が表立ってストーリーが崩壊しているきらいがあるけれど、こうしてストーリーも作画もレベルの高いものは、ジャンルを超えて生き残っていくのだと痛感したわ。

感性が鋭敏になっている時期にこんな作品に出会ってしまった少女たちは、きっと今の漫画を物足りなく思っていることでしょうね。さて、今「デザイナー!」を読んで何をどう感じるか、それがあなた自身のリトマス試験紙になるかもしれないわ。是非読んでみてね!

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2013年04月04日

桜庭一樹日記1 ノンフィクション的フィクション編

20130406作家、桜庭一樹というはとにかく女性の描き方が絶妙なの。

「私の男」という作品でも、登場する女性全て親近感が湧くくらいの生々しい描写だったわ。今回ご紹介する「ばらばら死体の夜」という作品も、登場する女性陣が活き活きと描かれていてお見事よ。

タイトルがホラー仕立てではあるけれど、ストーリーはちょっと物悲しさを感じさせるわ。本書は6章から成り立ち、1章は神保町の書店の2階に住む美しい女、沙漠、2章はかつてここに下宿していた40代の翻訳家、解、3章は解の同級生で翻訳家の里子、5章は書店の大家の視点でストーリーが進んでいるの。4章は過去の沙漠、6章は現在の解の視点で描かれており、それぞれの時間軸が交差していて1度読んでからもう1度読み返すときに鮮度を保てるのが良い。

ストーリーは神保町にある書店の2階に下宿する美女、沙漠がかつてここに下宿していた翻訳家の解と出会う所から始まるの。2人はいつしか身体を重ねる仲になり、沙漠は解の身につけているブランド品から裕福さを感じとり、300万円貸してくれと言い出すの。一見裕福そうでも、実は解は妻の実家から援助を受けている上債務者だったのよ。解はお金を渡すから、と沙漠を連れ出し、かつて自分が育った貧しい家へと連れて行き・・・というものよ。

どこか非現実的でファンタジー的要素もあるけれど、2人を中心に彼らを取り巻く人々もお金に翻弄されて流されているというのが現実的よ。お金によって生まれる欲望、嫉妬、悲しみ・・・どれもがあり得ることだけど、そのどろっとした沼に身を沈めて生きて行くのか、そこから浮上するためにもがくのか、選択肢は幾つでも存在する。しかし解が選んだ道は実に感情的で人間らしい、そんな気がしたわ。

人を殺す、ましてやばらばらにするなんてぞっとする事だけど、その行為は彼にとって好意なの。何故そんな風に思えるのかというのは、解の抑圧された幼少期を辿っていくと感覚的に理解出来るような気がするわ。

人間の幸せは物や人や地位、色々な事で満たされるけれど、果たして自分にとって一体何が幸せなのか・・・沙漠のように目に見えるもので感じられるのか、解のように目に見えない感覚で感じられるものなのか、それともどちらも必要で不必要なのか・・・ふと現実の自分と向き合いたいときにお薦めの1冊よ!・・・あなたは今、幸せですか?満たされていますか?

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2013年03月29日

日野日出志日記1 鬼才の挑戦編

20130329「地獄変」…これほどまでに強烈な作品が発表されていたとは、ただただ驚くばかりよ。

尊敬してやまない日野日出志氏が29年前に発表された代表作のひとつなのだけど、あとがきには「このこわい物語は事実ではなく、著者の創作である」という編集部からの一文が…ホラー漫画なんだから当然なんだけどあえてそう書かないと読者が怯えてしまうという判断したのね。



その内容は実に哲学的で、表現はグロテスクで美しい!ある絵師が血の匂いとその美しさに魅せられ、地獄絵を描き続けているというところから物語は始まり、やがてその作品達がどうやって描かれたかを語っていくというストーリーなの。



家の前にある刑場で落ちてゆく首を見ながら絵を描く主人公、暴力を振るう彼の父、狂った母、肉の塊と化した弟、夜な夜な死者を相手に居酒屋を切り盛りする妻、目玉や死体を集める可愛い子供たち…様々な人間が登場しそれはそれはおぞましい光景が展開するのだけど、その背景には作者の戦争や暴力に対する思いや人間の暖かさを欲する思い、死に向かって加速する自分の中の思いなどがふんだんに折り込まれていて、その深さに思い知らされたわ。



血を吐きながら絵師はラストで「皆死ぬ!」と狂ったように叫び、私たち読者に斧を投げつけるの。紙に印刷された絵のはずなのに、なぜか今でも斧は自分の方に向かって飛んでくるのでは・・と今でも恐怖を覚えるのは、自分が死に向き合えるようになったからなのかもしれない。



これほどまでに内面的な怖さをここまで表現されるなんて、最早為す術無しよ!内容についてもっと書きたいけど、やめておくわね。是非機会があれば皆さんに読んでいただきたいから。



しかし、この当時この作品を生み出した日野先生も鬼才の域を超えてるけど、老舗出版社"ひばり書房"もかなりのチャレンジャーだと思う。この絵師はきっと先生自身…彼の叫びは当時の先生の心の叫びであったであろう事は間違いない!アーティストは自分を削り作品を生み続け、狂気と苦しみの中で表現し浄化を望む・・まったくこの絵師と同じね。

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2013年03月09日

火山人間日記 ほろ苦い暗黒童話編

20130306「火山人間」…このタイトルとアートワークを見た瞬間戦慄が走ったわ。

このアプリは世界で10万ダウンロード突破し、NUIT DU LIVRE- Paris2012 電子書籍部門で大賞受賞と非常に評価の高い作品よ。これだけ電子書籍のシェアが広まりクオリティの高いコンテンツが鎬を削る中、後退気味の日本…一体どうなってしまうのかという不安でいっぱいだわ。

この作品はフランスで制作されたもので、日本語、英語、フランス語、スペイン語に訳されているの。内容が内容だけに対訳が困難な部分も多いけれど、感覚的にズン!と伝わってきて読み終えた後は震えが来たわよ。

物語は10歳の少女である「わたし」が弟ジェルマンについて独白するスタイルで進行していくの。勉強嫌いの変わり者の弟は「地底旅行」という本の虜になり、地底人と友になることを夢見ていたわ。学校の成績が上がったご褒美に家族全員で火山へ行くことになり、弟は大喜び。しかし、現地に着くなり興奮した弟はそのまま火山口へと吸い込まれて行ってしまった。

そんな悲劇から4年経ち「わたし」は弟を思い悲しみに暮れていると、聞き慣れた声が・・・!

よく見ると小さく黒く焦げたジェルマンが煙を上げてピョンピョンと跳ねていたの。変わり果てた姿の弟は生前と変わりなく朗らかで、チョコバーに隠れたり、女の子の胸にうずまったり気ままな生活をしていると言う。呆れながらも「わたし」は弟に再会できた嬉しさに涙し、燃え続ける弟を不憫に思って、お得意のお菓子作りの要領で弟をクレープの皮でコーティングしてあげたのよ。

やがて帰宅した母は、コーティングされたジェルマンを息子と認識する間もなく口へ・・・なんとも美しく、なんとも切なすぎて呆然としたわ。ストーリーもさることながら、イラストの美しさには目を見張るものがあるの。フランスらしい茶とグレーのカラーチャートのみで描かれたような細やかな線は存在感がある上に滑らか…いつまでも見ていたい、そんなラインよ。

このアプリは革新的な仕掛けがいくつかあり、どれもが「時間」を見事に表現しているわ。火山に墜ちていくジェルマンの動きは何層ものレイヤーになっていて火山にゆっくり呑み込まれていくし、姉のベットでゆっくり休む弟の炎がシーツに燃え移っていったり、ジェルマンが鬱病のティンカーベルと初めての恋を鍋の中で楽しみ、やがて鍋の蓋が閉められ彼の炎だけがチラチラと燃えていたりと、ストーリー同様動的な部分もゆっくりと進み、心臓をチクチク刺されたような気分になったの。

音楽も同じフレーズのメロディーが要所要所で登場し、火山に墜ちるときは歪んだりして、世界観を邪魔しない匙加減が絶妙で、更に心臓を刺されたわ。一見偏り気味な世界のように見えるけれど、テーマである家族愛がしっかりとしかも自然に描かれているのが絶妙ね。

笑うべきか、嘆くべきか、この結末に対してどう捉えるかは読み手の感性に委ねられている訳だけど、あまりにも素晴らしい作品を目の当たりにすると悔しいというか痛いというか、それでも目を通さずにはいられない麻薬のような高揚があるのよね。

自分の感性に全てがガッチリリンクするというのは非常に珍しい…このアプリを制作したアーティストに是非コンタクトを取らなくては・・・。このアプリは、誰もがどうなるのかと期待していた電子書籍に革新的な一石を投じたわ。歴史的な瞬間を決して見逃すな!

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2013年02月27日

高橋葉介日記2 悪夢交渉人編

20130228このブログでは既にレギュラーと言っていいほどご紹介している漫画家、高橋葉介氏の短編集「悪夢交渉人」を読んでみたわ。

実はこの本、偶然古本屋さんで見つけて即買いしたのだけど、やはりタイトルの秀逸さにまず目を奪われる。今作は表題作の4編と短編7編で構成されていて、どれも深く頷きながら読み進むといった具合よ。「悪夢交渉人」とはその名の通りお金をもらって悪夢を回収するという大学生、夢継渉(ゆめつぐわたり)の物語。

姿の見えない化け物に夜な夜な襲われる女子大生、双子の妹を死に追いやったと自責の念にかられ悪夢に囚われる少女、自分が幽霊だと思い込み死霊の中に存在する学生、自分のコンプレックスから美しい継子を襲ってしまう継母…どれも悪夢に悩まされているのは女性ばかり。

彼女達は自分の深層心理にあるどす黒い感情を、夢の中で解放し苦しんでいるの。渉はそんな彼女達の悪夢の根源を探り当て浄化させる…でも値段交渉したりするなど、ドライなところが非常に良い。

相変わらずの高橋節ともいえる筆遣いは大胆で、登場する女性陣も美しいわ。他の短編は、妖しい露天商が様々なものを売りつける「露店」、ベビーシッターの仕事を受けた少女がはまるメビウスの輪「リ・プレイ」、家庭教師をする少女の家に現れる奇妙な女「お姉ちゃん」などなど、高橋氏のブラックファンタジー・ワールドが全開!特に気になったのは「露店」という作品で、妖しい露天商が通りかかる主人公の少年に色々な動物を売りつけていくのよ。最初は亀、そしてうさぎや子猫…買わなければ目の前で殺そうとするの。

優しい少年は驚いて毎回動物達を買うけれど、亀以外は皆短命だったわ。縁日でひよこやうさぎを買うとあっという間に死んでしまうという話を良く聞くけど、そのせいか露天商ってどこか異様な雰囲気があるのよね・・・そんな不気味な部分を見事に描きだしているわ。

やがて少年が成長すると露天商は人間の子供を買えと言ってくるの!少年が驚いて黙っていると、彼は持っていた金槌で赤ん坊を・・・!シーンが変わり大人になった少年が新妻を呼ぶ、すると彼女の額には金槌で殴られたような大きな痣があった…というテンポの良い纏め方になっていたわ。

常日頃から思うけど、短編は作るのが本当に難しい。短い時間で緩急をつけないといけないし、ピークまでとその後のリズムの取り方肝になってくるのよね。高橋氏はそういう意味合いでも有能なミュージシャンと言えるかしら。彼の作品未体験の方は、この短編集をオススメするわ。ありとあらゆるジャンルを楽しめると同時に彼の発するメタファーに魅了されること間違い無しよ!

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2013年02月22日

ケープドクルセイダー日記 ヒーローの最期編

20130221誕生日にプレゼントで頂いた、ニール・ゲイマン原作の「バットマン最終回」を熟読よ!

表紙は、バットマンの執事であるアルフレッドが彼のマスクを持ち涙をこらえているというセンセーショナルなもの。とにかくビックリするけれど、バットマンの葬儀にキャットウーマンやトゥーフェイス、ジョーカーにゴードン警部、ディック、リドラーとオールスターが次々とやってくるの。

棺の中のバットマンことブルースはそんな彼らの語る思い出話を聞きつつ、自分の葬儀を見ているという設定よ。しかし、これほどの大物キャラクターの葬式って・・・実に斬新で、なかなか思いつくものじゃないわね!

絵柄もアメコミらしい大胆な線画であるけれど、ストーリーの展開が刺激的で色濃い印象よ。葬儀に訪れた参列者は次々とバットマンの思い出を語るのだけど、これが実に面白いの。キャットウーマンは犯罪や戦いから足を洗った後、ペットショップを開業していたわ。

そこに傷付いたバットマンが現れ、傷の手当てを求めるけど彼女はそれを拒否し拘束。やがて彼は出血多量でしに至ってしまう。それが彼女のバットマンに対する愛だと言うのよ!次は執事のアルフレッドの告白なんだけど、これが凄い。

自らメイクをしてジョーカーとなりバットマンの好敵手として登場、しかも友人の役者にリドラーになるよう指示するけど、バットマンにばれてしまったわ。これはすべて両親の敵を討たんとするバットマンの士気を上げさせるためだったのよ!

リドラーはいつものように悪事を働くけどやがて演技は本気になり、精神に異常を来してしまっていたの。彼の正体を知ったバットマンはやめるように促すと、リドラーは発砲…それからジョーカー、ロビン、スーパーマンまでがバットマンの死について語り出すのだけど、一体どれが真実なのかわからないわ。やがて、魂となって自分の葬儀を見ているバットマンの側に殺された彼の母が現れるの!

自分は死後の世界を信じないと言う彼に対し、母は天国にも地獄にも行かない、バットマンだったご褒美はまたバットマンになれることだ、と諭すのよ。

最終的に輪廻転生という形で幕を閉じるので納得がいくといえばいくけれど、それまでの各自の告白がストーリーにテンポを出していて面白い。これなら最終回にふさわしいかもね。

付録でこの物語のラフペンシル、下仕上げのリニア・ブレイクダウン、完成のフィニッシュド・ペンシルの3段階が掲載されているのだけど、ラフの段階で表情が出来上がっているのが凄いわ。鉛筆のままで十分!という神懸かったレベルなので、これを見るだけでも価値があるかも。

今作は4本のオムニバスになっているけど、この最終回が群を抜いているのは仕方ないわね。いや~、しかし日本だと余り思い切ったことは許されないだろうけど、最終回ならドーンとやって見せて欲しいわ!連載時のデビルマンの最終回くらいにね!


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2013年02月15日

SEX日記 上篠敦士というブランド編

20130211「TO-Y」という漫画をご存じのかしら?

藤井冬威という青年が、自分の音楽を確立すべく日本の音楽業界に斬り込んでいく…簡単に言ってしまえばそんなストーリーなのだけど、インディーズ、メジャーという立ち位置がくっきりと別れていた時代、各々の仕事や生活スタイル、モチベーションなどが細やかに描かれた希有な作品だったの。

ストーリーはさることながら登場人物が実に魅力的で、漫画というよりは動的なイラストがストーリーを紡いでいくといった様な、前代未聞の作風に圧倒されたわ。そんな作品を世に送り出した上篠敦士氏のもうひとつの金字塔的作品「SEX」。

タイトルは衝撃的だけど、映画好き音楽好きの上篠カラーが全面に出ているの。連載当時諸事情で続編がなかなか発刊せず、ファンがやきもきして10年以上待ち続けたというエピソードがあったそうだけど、「待っても絶対読みたい!」と思わせるほどの堂々たる作品というべきかしら。

物語は美しく陽気な高校生カホ、その幼なじみの青年ユキ、彼らと行動を共にする謎の青年ナツの3人が沖縄、福生を舞台に破天荒に生きる様を描いているわ。でもこのストーリーを説明しろと言われたら、ちょっと悩んでしまう・・・核になるテーマは?と聞かれても即答できないし、感覚に訴えてくるとしか言い様が無いのよね。いつもなら否定的に捉えてしまう内容ではあるけれど、その部分を上回る構図力、作画力が右脳に直接インプットされてしまいその魅力に囚われてしまう。

上篠氏の作品は、人物以外の風景や背景だけで時間を表現してくるのが凄い。どのコマを切り取ってもポストカードのように完成されている。まるで時間を切り取ったよう・・・かといって動きが瞬間冷凍されているのではなく、絶えず空気も温度も流れているという「絶対的な線画」がそこにある。今作は舞台が福生だの、殺し屋だの、米軍基地だの、美女スナイパーなど、一見陳腐になりそうな要素が並んでいるけれど、実にスタイリッシュで読み終えた後の爽快感はなんと言うべきか。

そして見所の一つはなんといっても衣装ね。それぞれのキャラクターにピッタリとリンクしたデザインは、本屋に積んであるファッション誌を見るよりも楽しい。そのキャラが普段からどんな事を思いそんな生活をしているのか、その部分をしっかりとファッションで表現出来るというのも素晴らしいわね。

特に女性靴のこだわりは必見。何度読んでも飽きることはないし、暫くするとまた読みたくなるというリターン機能付きの上篠作品…高級ブランドの服に心ときめかせ購入、着こなしてそのうちクローゼットへ、また最近久しぶりに着てみたけどやっぱり形も色も綺麗だと認識、という一連の流れに近いかも。まさにこれが「上篠ブランド」に魅せられたということなのね・・・!最近文庫版も発売されたという事なので、興味ある方は是非魅せられてください。

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