2015年05月21日

本谷有希子日記 己に向かうベクトル編

20150517不思議なもので、”気になる本”って本の方から読み手を呼ぶのよね。この本もそう…本谷有希子の「腑抜けども 悲しみの愛を見せろ」

読み始めた当初は人物の描写がくどいほどに細かく、これまた三島由紀夫を思わせる部分も多かったけど、読み進めていくうちにその味の濃さは丁度良い加減になっていたから不思議よ。文章を書ける人というのは、料理同様その味わいの深さもさることながら、様々な味付けで小さく大きく変化をつけられるものなのね。

内容は両親の事故死により故郷の田舎に帰ってきた女優志願の美貌の姉と漫画を描く事で自分を表現する地味な妹、己を犠牲にしても家族の幸せを考える兄、一見愚鈍ではあるけど家族と愛を欲する兄嫁…4人それぞれの思惑が見え隠れし、やがてそのベクトルは己へと向かっていくという破滅的なストーリーよ。読み終えるとあまりのシンクロ率の高さに気分が悪くなったわ。

姉の美貌に比例するくらい並はずれた自己愛…それが理由で一家は追いつめられていくのだけど、結局それは姉自身が己を守るための唯一の武器だったの。女優としての才能がなくてもそれを認めず、ただ誰かが自分を導いてくれるのを待っている。それに対して根暗な妹はそんな姉の華やかさに惹かれつつ、彼女の負のエネルギーを糧にし自分の才能を花開かせてしまう。

果たしてどちらが”悪い”のかというとどちらも悪いし悪くもないのよ。

そんな彼女達の間でバランスをとっている兄嫁は愛する人を失ってしまうけど、最終的に勝者になるという実に皮肉な展開へ。

でも何故これ程この作品に惹かれたのかと考えてみると、妹の漫画に取り組む姿勢や考え方が自分に酷似していていたからだということが理解出来たわ。どんな辛く悲惨な状況も自分の作品にする…なんでもそうだけど、表現をする人にとって現実は格好の題材であることは間違いないのよね。どんな経験も己の糧にし、それをアウトプットするからこそ伝わるものは大きい。女優になりたい、ミュージシャンになりたい、自分の夢を叶えたい、そう考えている人こそ本書を読むべきかも。

読み進めていくうちに、著者の『現実は”こう”ですよ。思い知れ!』という嘲笑と『そこから”どう”やっていく?のし上がるの?』というエールが同時に鳴り響いてくるわ。本作は映画化されているけど、個人的に見てみたいとは思わないわ・・・なぜなら、この本を読んでしまった自分自身に己が向かってきてしまったから。さあ、この容赦ない1冊、是非お試しあれ。

pipopipotv at 00:00│Comments(0) ご本 

コメントする

名前
 
  絵文字