スリッパの法則日記 ダメ会社の法則編MISA HARADA日記1 出会い編

2015年02月10日

三島由紀夫日記3 永すぎた春編

20150209三島作品の中でも異質と呼べる作品のひとつ「永すぎた春」…個人的に彼の作品に惹かれる理由は、その文面から宵闇のような色合いと重厚でどろっとした味わいを楽しめるからなのだけど、今作はやわらかな日差しとちょっぴり塩気の効いたお菓子を頂いたときの様な爽やかさを感じるの。

毎回三島氏のレンジの広さには驚かされるけれど、一般的な題材ながら程よいアクがあって読み応えは十分よ。

人物描写が見事で、行を追う毎に映像が見えてくるわ。今回はタイトルからもわかるように、これから結婚をする若い2人が主人公なのよ。美しくて賢い古本屋の娘、百子と裕福な家庭の法学部の学生、郁雄は家柄の違いを乗越えて結婚する日を指折り数えてたの。

結婚するまでは清い関係を保とうとする彼らの前に現れた、悩ましい年上の女性やプレーボーイの青年。その上百子の兄の婚約者の母や、誇り高く口うるさい郁雄の母の騒動が続いて、2人は破談の危機に・・・。世間知らずの2人は様々な困難に立ち向かいながら成長していく、というストーリーなのだけど、この”渡る世間”的なソープディッシュが実にテンポ良く、あっという間に引き込まれていってしまう。

世間知らずの2人が結婚までの期間を楽しんでいる間、それをからかいたがる人間は少なくないわ。そんな欲の隙間に生まれた闇にのまれるか否かは当の本人達次第・・・しかし、郁雄だけがのまれかけてしまった。登場する女性陣は実に強烈、各々の存在がガッチリ確立されており魅力的なので仕方が無いかもしれないけれど・・・。

郁雄が惑わされた女性は感性が鋭くビジュアルも個性的で、百子とは全く正反対のタイプ。彼女の部屋が”郁雄が存在する事で完成される絵の具の乾かない絵"と表現され、いかに郁雄が彼女のアクセサリー的な存在かということがわかる。郁雄自身もその空間で"自分が愛玩される花瓶か何かに変貌してゆく無気力な快感"を味わったというから、この比喩から妖艶な女性に翻弄される若い青年の悦びが読み取れるわ。

そして勉強に集中してなかなか会えない婚約者の事を思い、気分を紛らわそうと仕事をする百子が「あの人は勉強、私は仕事…これで釣り合いが取れる。でもこんな対抗意識が強くて良い奥さんになれるだろうか」と思う場面では、彼女の芯の強さを垣間が見えたのと同時にこの考え方が自分に酷似しているのでゾッとしたわ。

この物語の背景は昭和30年代、女性の奥ゆかしさが尊ばれていた時代にも関わらず男性と対等でありたいと思う心意気は爽快ね。しかし若い2人の成長を最も促したのは、百子の兄の婚約者の母親よ。彼女の存在があったからこそ彼らは生きる事の厳しさと哀しさを知る事が出来たのよ。

母親は幼い頃から貧しく、自分の娘が老舗の本屋に嫁ぐと知り喜ぶもその幸福に嫉妬し百子の恵まれた境遇に嫉妬するという、外面も内面も”真の貧乏”なの。温室育ちの若者たちにはかなりの試練となったけれど、彼女のまき散らす毒が若い2人の予防接種になったことは間違いない。悪女ではあるけれど、個人的にはこの母親が最も人間臭くて気に入っているの。更に彼女と相反する位置に立つ郁雄の母親も興味深く、主役の2人よりもバイプレイヤーの女性達の存在感には圧倒よ。

巧みな三島節により中核の2人とそれぞれのキャラクターのバランスは完璧…フルコース料理でそれぞれのお皿を楽しんだあと、満腹感に微睡むといった感覚に酷似しているわ。こんなありふれたテーマでもセンセーショナルに描いてしまうのはさすが!よ。

どんなカップルも多難を乗り越え結婚というゴールを迎えるわけだけど、それはほんの始まりに過ぎないもの…本当の春を感じるのは永い時間をかけてからなのかもしれないわね。

pipopipotv at 00:00│Comments(0) ご本 

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